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地機布インスタレーション
「昭和村のからむしの布」

きらきら、
ゆらゆら、
ゆれる、たゆたう——

歩き回ったり、
くぐってみたり
あいだをすり抜けたり、
すわってぼーっとながめたり。

あっちから、こっちから
ゆっくりと、すきなだけ。
感覚をとぎすませて、
この空間を味わってください。

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福島県昭和村は、からむしと呼ばれる繊維作物を育ててきた村だ。
根を植え(*1)、春には芽を焼き揃え、垣で囲い、夏に刈り取り繊維を取り出す。
丁寧に丁寧に引き出された繊維は美しい輝きと色合いを持ち、高級な夏着物の原料として出荷されていた。

その一方で、自分たちの衣服を自分たちで作る文化ももちろんあった。
こちらは主にアサを使う。(*2)
山深い村、雪に閉ざされる冬の間、繊維を一本一本裂いては績み繋いで糸を作り、撚りをかけ、地機(じばた)と呼ばれる織機(*3)を使い、布を織ってきた。

今昭和村では、この二つの伝統を掛け合わせ、からむしを地機で織るという取り組みが行われている。
村内のからむし工芸博物館などで行われる実演で、毎年からむしの地機布が織られており、それを使わせていただいてこのインスタレーション展示が実現した。

自分の腰で経糸を張る地機の布には、独特のゆらぎが生まれる。
経糸がぴっしり固定される機械織りとはもちろん全く違うし、手織りでもかなり一定に固定できる高機ともまた違った表情。
経糸を均一に固定できないからこそ糸にあそびが生まれて、緩やかに空気を含む柔らかさ、てろんとしたしなやかさ、”余白”と言えるようなものがそこにはある。

この地機のからむしの布のゆらぎを、目で、肌で、五感いっぱいに感じてもらえるような企画を、と思いついたのがこの企画。
古い木材と漆喰の壁に囲まれ、ゆったりとした時の流れを感じる喰丸小、秋の清々しい空気を感じながらもまだその盛りを誇る大銀杏の青々しさの中で。
朝から夜にかけての陽の動き、その強さや色合いの変化、天気によって違う光の質感、肌感覚。
自然の変化のもと毎日、毎秒違った表情を見せてくれた。

嬉しかったのは、小さい子が自由に空間で遊んでくれたこと。
布の周りを歩き回るのはもちろん、低く吊るした下を、四つん這いになってくぐってみたりしていた。
存分にからだいっぱいにあの空間を楽しんでくれて、やってよかったなあと思った。

・・・

普段は喰丸小の開館時間に合わせてオープンしていたが、
一日だけ夜の鑑賞会を開いた。その名も「闇夜に浮かぶからむしの布」。
集落の端に位置する喰丸小の周りには街灯が少なく、
灯りをともすと窓ガラスにはくっきりと布の姿が浮かび上がった。
外側の窓には時折、車のライトが一直線に走り抜ける。
廊下側の窓には合わせ鏡のようになった布の影がぼやーっと何重にも折り重なる。

村や近隣地域の若者たちが集まってくれて、
夜の静けさの中、ハーブティーと共にゆったりと思い思いに過ごしていた。


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*1:根っこと呼ぶけれど実は地下茎。
*2:昭和村でいう「からむし」は苧麻=ramieのこと、「アサ」は大麻=hempのこと。どちらも「麻」と呼ばれる繊維だけれど、全く違う植物。
昭和村では基本的に日常着用には粗いアサの布を織っていた。晴れ着用に経糸にアサ、緯糸に苧麻を使った布を織ることも結構あったようだ。
*3:布を織る織機には、国や地域や年代によって色々な種類がある。経糸を張って、緯糸をその間に交互に通していくというのが基本的な織りの原理で、その経糸の張り方をどうするかが一つのテーマ。自分の腰で引っ張るもの、枠のしっかりした織機を作ってその枠組みで張るものなどがあり、昭和村で言う「地機」は前者、「高機」は後者。

Year:

2020年

Materials:

からむし

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