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蔓から生まれるきらびやかな光沢
軽やかにきらめく繊維

​分類

マメ科 Fabaceae

クズ属 Pueraria

別名

カンネカズラ

 ふわふわの菌糸をまといどろどろに腐った蔓から、眩いばかりのきらめきが現れる驚きの、なんて表現したものか。

 どこにでもある草、あっという間に敷地や建物を覆ってしまって嫌がられる蔓だけど、こんなみやびな輝きを秘めているなんて。暑い夏、澄んだ水を求めて向かう川の上流、その冷たいせせらぎの中で揺れる繊維は水に透けて美しく、いつまでも見ていられる。

 小川の脇に洗う前の蔓を置いておいたら、ひらひらと黒揚羽がやって来た。 

 もしかしたら、中に美しい輝きが眠っていることを知っていたのかも、なんて。

【メモ】

※文章内(数字)は参考文献番号

●植物としての特徴

 葛はマメ科の蔓性の多年草で、日本各地どこでも見られる植物。蔓を伸ばして急速に繁殖する。葉は3枚ワンセットになっており、切れ込みのあるもの、丸いものがあり、夏の終わりごろからワイン色の可愛い花を咲かせる。小説『からくりからくさ』にも出てくるように、この花はお茶として飲まれる(虫に注意)。根は馴染み深い風邪薬「葛根湯」や葛切り、葛湯に、葉は家畜の餌に(※1)。そして茎(蔓)が籠や繊維の原料となり、人間の生活に広く利用されている。

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●繊維の性質

 葛は、その繊維の光沢感が一番の特徴。緯糸に撚りを掛けない糸を使うとその光沢が活かされる。※2

 繊維はからむしより細い中空構造の細胞が集まって出来ているらしい(12)。そのおかげかすずらんテープのように綺麗につるつると裂くことができる。恐らく腐らせて繊維を取り出したためか、繊維を強く引っ張ると切れてしまう。葛糸を使って織った布はとても軽くパリッとして少し暖かい感じもする。

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【注】
※1福島県昭和村ではかつて「クゾのヤマノクチ」があった。「クゾ」が葛、「ヤマノクチ」とは「山の口開け」=採集解禁日のこと。今では葛なんて厄介な雑草でお金を払って刈り取ってもらうようなものだけど、昔は禁があるほどに大切なものだった模様。馬など生活に欠かせない家畜の餌だったからなのだろう。ちなみにこういった採集制限は多く、他にカヤなんかもその対象。それだけ自然の恵をいただく生活をしていたということ。

※2撚りを掛けないと光沢が活かせるが、撚りを掛けた糸と比べ強度が劣る。腐らせる工程を経て取り出した葛繊維は元々引っ張りに弱いので、撚りを掛けない糸は負荷のかかる経糸には使用できず緯糸にのみ使われる模様。撚りを掛ければ経糸にも使えるようで、古いものには経緯葛糸のものもあるらしい。(現在流通する日本産の多くは経に綿や絹など別の繊維を使っている)

【参考文献】

  1. 柳田國男『木綿以前の事』

  2. ルイズ・アリソン・コート「日本の古代織物3種の移り変わる運命」『布と人間』アネット・B・ワイナー 他 編, 佐野 敏行 訳, 1995年,ドメス出版

  3. 布目順郎『目で見る繊維の考古学』1992年, 染織と生活社

  4. ​長野五郎、ひろいのぶこ『織物の原風景 樹皮と草皮の布と機』1999年, 紫紅社

  5. ​『太宰府町の文化財 第1集 -菖蒲浦古墳群の調査-』1976年, 太宰府町教育委員会

  6. 『葛布と日本の自然布』2019年, 全国古代織連絡会

  7. 小林孝子「日本在来織布の研究(第一報)」 『家政学雑誌』 26巻1号 p50-56, 1975 年, 一般社団法人 日本家政学会

  8. 小林孝子研究-葛布について-」『鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編』第25巻p75-81, 1974年, 鹿児島大学

  9. 深津裕子「伝統工芸技術の記録と保存-江戸時代後期の 「葛布道中着」に用いられた素材の復元を事例として-」『無形文化遺産研究報告』第4号 p61-74, 2009年, 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所

  10. 深津裕子「染織工芸技術の変遷-葛布の製作技法と用途を事例として-」『無形文化遺産研究報告』第2号 p35-53, 2008年, 独立文化

  11. 岩崎 史子 「現代における葛布の可能性」2009年. 滋賀県立大学人間文化学部道明研究室

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