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からむし / ramie

からむし(苧麻)

ちょま

ざらざらと心地よく
蜻蛉の羽のように透き通る繊維

​分類

イラクサ科 Urticaceae

カラムシ属 Boehmeria

別名

青苧(あおそ)、真麻(まお)、ヒュウジ、
カッポンタン、ブー / ラミー※1

 蜻蛉の羽のように、青く透き通る繊維。手塩にかけて育てられ、上手な人が手で引いた(繊維を取り出した)引き立ての、生まれたての繊維は、はっとするような真珠の輝きとしっとりと艶やかな透明感がある。光に透けた繊維の束はまるでウエディングドレスに包まれた花嫁のようだった。触れると、いきいきとした弾力があり、しゃらしゃらと音がする。

 私は、そんな美しい繊維が引けたことはない。でも、それでも、緑色の茎の皮からぼやっと光る繊維が出てくると、嬉しい。

 

 一つひとつの細胞が長いから、綺麗にすーっと細く、毛羽立たず裂くことができる。しっかりとした強靭性があるから(「麻」と呼ばれる繊維の中で最強らしい)、引っ張ってもへっちゃら。むしろ、こちらが負けて、糸を績むときに口を切ってしまうこともあるほど。上質な繊維を丁寧に繋いだからむしの糸は、場合によっては撚りをかけなくたって経の糸に使えるらしい。すごい。(織るとき、経糸には力がかかるし機の筬(おさ)という部分などに引っかかりやすいので、普通は撚りをかけて強くする。)
 

 私は、この繊維の触り心地が大好き。適度にざらざらとしていて、心地いい。ずっと触っていたくなる。毛羽も出にくいから、埃も出にくく、私の鼻センサー(ハウスダストにとても敏感)も反応しない。だから、いつまででも作業できる。

​ そういう、「心地いい」「やっていて嫌じゃない」って、すごく大事。

【メモ】

※文章内(数字)は参考文献番号

●植物としての特徴

 イラクサ科の多年草で、日本では全国各地の土手などによく見ることができる。背丈は1m以上、栽培すれば2mほどに育ち、葉は卵型で端にギザギザがある。葉の裏には毛が生え、密に覆われ白く見えるものから、ほとんど生えておらず緑色に見えるものまである。

 葉はクセのない味で、食べることができる。また、現代日本ではあまり馴染みがないが、地下茎と根とともに漢方薬として記述がある(和漢三才図会)。

 種は発芽率が悪く(24)、基本的には地下茎で増える。生育旺盛で、条件が整えば年に何回か収穫できる。寒い地域では冬に地上部が枯れるが、春になるとまた芽を出す。

 変種や亜種が多く、様々な見た目や性質のものがある。

からむしの植物としての特徴 / Features of ramie

●歴史

 アジアで広く縄や布の原料として使われてきたらしい。弥生時代にはどうやら栽培をし布を織っていたようで(魏志倭人伝)、奈良時代に植えることが奨励された記録が残っている(日本書紀)。

 江戸時代、産業の発達とともに漁網や着物生地原料としてからむしの需要が高まる。特に上質なからむし生地の人気が栽培・繊維の取り出し技術を発達させ、山間部などに良質な原料生産地を生み出した。(6,9-12,18)大正時代ごろ軍需製品の原料として海外から近縁種が導入され栽培されたこともあったが、現在国内での栽培は途絶えている(植物自体は野生化して残っている)(6)。

●繊維の性質

 からむしの特徴は、何といってもシャリっとハリのある独特の質感、光沢感と強靭さ。

 茎から採れた繊維は、細長い繊維細胞がガム質でくっついてできているもの。細胞は断面が平たい楕円形で中空構造を持ち、長さはまちまちだが他の麻類と比較しても際立って長いらしい。引っ張りにもとても強い繊維で、水に濡らすとさらに強くなる。熱伝導率が高く、吸収した水分をすぐに蒸発するため、涼感のある布となる(1,2,22,23)。
​ 繊維の色や光沢、強さ、裂きやすさや毛羽の出にくさなどは品種、土壌、育て方、刈り取りの時期、繊維の取り出し方法や精錬方法によってだいぶ変わってくる。また、機械紡績糸を使うか、手績みの糸を使うかなどで布は全く違った風合いとなる。※2

からむし繊維について / Properties of ramie fiber

●繊維の取り出し原理※3

  1. からむしを刈り取り、葉と脇枝を落とす

  2. 茎から皮を剥ぎ取る

  3. 皮を外皮部分と繊維を含む部分とに分離する

  4. 繊維から余分な部分を取り除く​

からむし繊維の取り出し方法 / Introduction of ramie fiber extraction

【フィールドワーク記録】

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【注】

※1名称について:
 まず、「からむし」は和語、「苧麻」は中国由来の漢語。「からむし」という言葉が江戸時代の事典(和漢三才図会)の項目にもなっているので広く知られる名称なのかと思うが、同時に「まお(を)」という言葉も並列されている。そのほかにたくさんの土地土地の名前がある。英語でこの植物のことをramieと言うが、日本では明治以降に導入された外来種や品種改良種を栽培地で「ラミー」(もしくはそれに準ずる言葉)と呼ぶことがある。からむし繊維産地福島県昭和村でも戦中に外来種が栽培されたが、経験者たちはその草を「ラミー」と呼んで、在来のものは「からむし」と呼んで区別していた。宮崎でも「かっぽんたん」(からむしを指す方言)と「らあみい」を区別するという(6)。
 また、現代の着物業界では紡績糸を「ラミー」と呼び手績みの糸と区別する習わしがあると聞く。
 衣服の品質表示規定では「麻」「苧麻」「ラミー」どれかを使用する(21)。

※2 性質について:

 からむしの機械紡績糸は手績みの糸とだいぶ性質が変わる。それは、機械紡績にかける前にまず繊維の細胞同士をくっつけているガム質を落とし、繊維の長さを短くして綿状にするためだと思われる。「紡ぐ」工程には長く絡みにくい繊維は適さない(1,2,23)。この加工でせっかくの繊維の強靭性は弱まり、糸の耐久性は手績みのものに劣ってしまう。例えば手績みの糸を緯に、機械紡績の糸を経に使って織った布を毎日使うと、手績みの糸部分は段々と柔らかく風合いがよくなっていくのに対し、機械紡績糸部分は脆くなっていき擦り切れてしまった。また、絡みにくいという性質から紡績にかけると毛羽が出やすいらしい。一般販売のラミー機械紡績糸をふのりで糊付けした程度では毛羽がおさまらず大変扱いにくかった。

※3繊維の取り出しについて:

日本各地、世界各地でさまざまな方法があるが、からむしに関してはこの原理で行われていることが多い。つまり、物理的処理で皮と繊維を分離する。それはガム質の結びつきがかなり強固で、亜麻(フラックス=リネンの原料)や葛のように腐らせて繊維を分離させることが難しいかららしい(23)。道具は色々で、私が習った福島県昭和村や山形県大江町では持ち手のついた金属の板、沖縄県宮古島ではミミガイという貝殻、台湾では竹を使うこともあるそうで、割った間に挟んでしごくらしい。

※追記(21.10.10)
どうやら剥いだ皮を池で腐らせて繊維を精錬する地域もあるようです。繊維の取り出しに関しては一概に言うことができませんね。

【参考文献】

  1. 大川治次「”麻(ラミー・リネン)”の構造と性質」『繊維機械学会誌』 33巻1号p77-84, 1980年,一般社団法人 日本繊維機械学会

  2. 石井裕[「麻繊維の形態安定加工」『繊維機械学会誌』50巻10号p569-574, 1994年, 一般社団法人 日本繊維機械学会

  3. 工藤雄一郎、一木絵理「縄文時代のアサ出土例集成」『国立歴史民俗博物館研究報告』第187集p425-440,2014年,国立歴史民俗博物館​

  4. 長野五郎、ひろいのぶこ『織物の原風景 樹皮と草皮の布と機』1999年,紫紅社

  5. ​菅家博昭『生活工芸双書 苧』2018年,農山漁村文化協会

  6. ​菅家博昭『別冊 会津学〈vol.1〉暮らしと繊維植物』2018,奥会津書房

  7. ​『博物館シリーズ1 苧』からむし工芸博物館

  8. 『博物館シリーズ2 アジア苧麻会議』,からむし工芸博物館

  9. 『博物館シリーズ7 小千谷縮布展』,からむし工芸博物館

  10. 『博物館シリーズ8 本荷』からむし工芸博物館

  11. 『博物館シリーズ9 奈良晒と原料展』からむし工芸博物館

  12. 『博物館シリーズ15 上杉家を支えた苧』からむし工芸博物館

  13. 『博物館シリーズ20 文字に見るからむしと麻 』からむし工芸博物館

  14. 『四大麻布—越後縮・奈良晒・高宮布・越中布の糸と織り—』2012, 十日町市博物館 , 近世麻布研究所

  15. 『妻有の女衆と縮織り—越後縮の紡織用具及び関連資料—』1987, 十日町市博物館

  16. 『おばあたちの手技 : 宮古諸島に伝わる苧麻糸手績みの技術』2017,宮古苧麻績み保存会

  17. 『宮古上布–その手技–』

  18. 『ふるさと発見大江: 重要文化的景観最上川舟運の歴史とロマンを訪ねて』2020,大江町教育委員会

  19. 広岩 邦彦「「唐布」から「奈良晒」へー十七世紀の輸入代替ー」『服飾美学』第六四号,2018,服飾美学会

  20. Encyclopædia Britannica "Ramie"  https://www.britannica.com/plant/ramie(閲覧日2021/6/20)

  21. 消費者庁「繊維の名称を示す用語」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/fiber/fiber_term.html(閲覧日2021/6/20)

  22. Nelson Potenciano Marinho, Graciela Ines Bolzon de Muñiz, Silvana Nisgoski, Ivan Venson, Pedro Henrique Gonzalez de Cademartori, Alan Sulato de Andrade "Histochemical analysis of stem and fiber of ramie (Boehmeria nivea (L.) Gaud var. Murakami)", Acta Scientiarum. Biological Sciences, vol. 40, 2018, Universidade Estadual de Maringá

  23. Seiko Jose, S. Rajna, P. Ghosh, "Ramie Fibre Processing and Value Addition", Asian Textile Journal 7(1):1-9, 2016

  24. Mukherjee P.K., Mondal R., Dutta S., Meena K., Roy M., Mandal A.B., "In vitro micropropagation in Boehmeria nivea to generate safe planting materials for large-scale cultivation", Czech J. Genet. Plant Breed, 54: 183-189, 2018

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